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東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)98号 判決

原告 有限会社大和不動産 ほか二名

被告 中野税務署長

代理人 三宅康夫 ほか五名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  請求原因一、二は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、本件更正処分等について検討する。

原告会社の本件事業年度における法人税の所得金額を算定するについて、地代収入一三二万四六七九円と名義書換料二八万三〇〇〇円が益金に含まれ、また、人件費一六万円、旅費交通費一五万二〇〇〇円、支払利息六万二五〇〇円、公租公課四〇万八〇九〇円、雑費一八万九〇〇〇円が損金に含まれるものであることについては、当事者間に争いがないので、以下、順次、不動産売却収入、不動産取得価額、みなし寄附金損金算入限度額の点について判断する。

1  不動産売却収入について

<証拠略>を総合すると、次の(一)ないし(四)の事実を認めることができる。

(一)  房次郎(明治九年八月七日生)は、本件土地を含む杉並区一帯の土地を所有する大地主であり、これらの土地を多数の賃借人に賃貸していた者であるが、昭和二七年一月三日に死亡し、養子の原告幸作、同貞子が右房次郎所有の財産を相続した(房次郎が本件土地を所有していたこと、同人の死亡により原告幸作、同貞子が相続したことは、当事者間に争いがない。)。

(二)  原告幸作は、右房次郎の死亡に先だつて昭和二六年九月二七日に本件土地の管理、運用を唯一の目的として同族会社である原告会社を設立し、代表取締役には原告貞子の弟訴外山本秀夫が就任したもののこれは名目だけにとどまり、その事実上の主宰は原告幸作であつた。そして、原告会社は、昭和二六年一〇月一三日及び同年一一月二日の二回に亘つて房次郎から本件土地を二一四万九一九六円で買い受け、昭和二七年一月二三日にその所有権移転登記を経由した(原告会社が同族会社であること、本件土地につき右のとおり所有権移転登記が経由されたことは、当事者間に争いがない。)。

(三)  原告会社が本件土地の所有権を取得した後も、同原告の事実上の主宰者である原告幸作が地代の収受やその増額交渉等の事務に従事していたところ、原告幸作のたび重なる地代値上げや更新料支払いの要求を受けた賃借人の一部は、原告会社が専ら本件土地についての原告幸作の相続税を免れるために設立されたものではないかとの疑惑をいだいたこともあつて同原告に対する感情を悪化させ、昭和三五年六月三日原告会社はなんら実体を伴わないものであるとの理由で静岡地方裁判所沼津支部に対して原告会社の解散命令を求める申立てをした。そこで、原告会社は、右事件につき弁護士木暮勝利に訴訟委任をして抗争したが、訴訟が進行するにしたがつて、原告会社が実体のない会社であると認定され裁判所から解散命令を受けるのは必至となつたので、そうなれば代々大河原家の財産であつた本件土地が清算手続によつて第三者の手に渡つてしまうのではないかと危惧し、昭和三五年九月ころ原告幸作、木暮弁護士、原告会社の当時の代表取締役市島徹太郎らが集まつて善後策を協議した結果、木暮弁護士のすすめに従い、房次郎の相続人である原告幸作、同貞子と原告会社との間で本件土地についての前記売買契約を合意解除してその所有権を原告幸作、同貞子に移し、その後に原告会社が自ら解散してしまうことが最良の解決策であるということになつた。その際、原告幸作らは右合意解除に伴う税負担を懸念しこのことが話題にのぼつたものの、木暮弁護士から税が課せられるはずはないと指摘されたことにより、結局、同弁護士の助言に従うことに落ちついた(原告会社が解散命令の申立てを受けたことは当事者間に争いがない。)。

(四)  原告会社と原告幸作、同貞子は、右協議結果に基づき、昭和三五年一〇月六日に当時時価が四六〇五万三五二五円であつた本件土地についての前記(二)の売買契約を、右時価の値上り分についてなんらの代償措置を講ずることなく合意解除し、返還すべき代金額を二一四万九二二三円と取り決め(これは前記売買代金額と一致しないが、双方の誤解によるものである。)、同月一一日に原告会社の所有権移転登記の抹消登記をしたうえ、原告幸作、同貞子において房次郎からの相続を登記原因とする所有権移転登記(持分二分の一ずつ)を経由した。その後、原告会社は、当初の予定どおり昭和三五年一〇月一四日に自ら解散し、同月二一日にその旨の登記を了したので、前記解散命令申立事件は申立ての取下げによつて終了した(本件土地の昭和三五年一〇月当時の時価が四六〇五万三五二五円であつたこと、右土地について所有権移転登記の抹消登記と相続登記がされたことは当事者間に争いがない。)。

原告らは、原告幸作が昭和二六年ころ安西敏雄から金員の借入れをするにあたつて、その弁済を確実なものとするために、本件土地の管理会社である原告会社を設立し安西がこれを管理して地代を収受することによつて右借入金の弁済に充てることにしたものであるから、房次郎と原告会社との間の本件土地の売買契約はなんら実体の伴わない仮装のものであり、それゆえ、右売買契約の合意解除も本来する必要がなく、ただ、房次郎を相続して真実の所有者となつた原告幸作、同貞子に所有名義を戻すための便法として合意解除をしたものであると主張し、<証拠略>中には一部これに符合する部分があるが、これは、前掲<証拠略>の原告幸作が本件更正処分等について税務当局に提出した上申書に記載されている同原告自身の主張や前記解散命令申立事件その他本件土地に関する別件の訴訟における原告らの主張<証拠略>とも一貫せず、その内容が曖昧かつ不自然であつて、措信することができない。また、証人木暮勝利の証言中、右認定に反する供述部分も措信しない。他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、同族会社である原告会社は、昭和二六年に本件土地を二一四万九一九六円で房次郎から取得したものの、昭和三五年に至り、前記解散命令申立事件の成行きにより、右土地が第三者の手に渡つてしまうことを阻止するため、これを原告幸作、同貞子の所有に移そうとしたが、右土地の時価が著しく騰貴していたことから敢えて通常の取引方法である右時価による売買を避けて、先の売買契約の合意解除をしたものと推認されるのであつて、これは、経済的、実質的見地からみて経済人の行動としては不合理、不自然なものであるというほかはなく、この行為計算を容認する場合においては、右時価による譲渡が行われた場合に比して原告会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となるものであるから、法三一条の三第一項の規定により否認されることを免れないものといわなければならない。したがつて、右取引にかかる原告会社の法人税は、原告幸作、同貞子に対して右土地を当時の時価四六〇五万三五二五円で譲渡したものとして算定するのが相当である。

してみると、右四六〇五万三五二五円は不動産売却収入として原告会社の本件事業年度における益金に算入されるべきことになる。

2  不動産取得価額について

原告会社が房次郎から本件土地を買い受けた価額が二一四万九一九六円であることは前示認定のとおりであり、また、昭和三二年度ないし昭和三五年度に原告会社の修繕費に計上した一三万一〇九〇円、一五万二一九六円、三万六〇〇〇円、二万三六〇〇円がいずれも本件土地についての資本的支出にあたることは、原告会社が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。してみると、右合計二四九万二〇八二円は、前項認定の原告会社から原告幸作、同貞子への本件土地の譲渡につきその取得価額として損金に算入されるべきものである。

3  みなし寄附金損金算入限度額について

原告会社と原告幸作、同貞子との間で行われた本件土地についての売買契約の合意解除が否認されるべきものであつて、原告会社から原告幸作、同貞子に対して時価相当額たる四六〇五万三五二五円で譲渡されたものとみるべきことは前示認定のとおりであり、また、右合意解除にあたつて、返還すべき代金額を二一四万九二二三円としたほか、原告幸作、同貞子が原告会社の債務六五万五八八四円を引き受けたことは被告の認めるところである。してみると、原告会社は、原告幸作、同貞子に対して時価四六〇五万三五二五円の本件土地を右二一四万九二二三円と六五万五八八四円との合計額二八〇万五一〇七円の対価で譲渡し、その差額に相当する四三二四万八四一八円を贈与したものとみなされるから、右金額は法人税法上寄附金として取り扱われるべきものである。

そこで、右寄附金のうち損金に算入すべき限度額を算定するに、これまでに説示した事実と原告会社の本件事業年度における資本金額が二〇万円であつたこと(この点は原告らが明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。)を基礎にすると、被告主張のとおり五五万二六五六円となる。

そうすると、本件の所得金額は、当事者間に争いのない前記地代収入一三二万四六七九円、名義書換料二八万三〇〇〇円に1で認定した不動産売却収入四六〇五万三五二五円を加算した四七六六万一二〇四円から、当事者間に争いのない前記人件費一六万円、旅費交通費一五万二〇〇〇円、支払利息六万二五〇〇円、公租公課四〇万八〇九〇円、雑費一八万九〇〇〇円に2で認定した不動産取得価額二四九万二〇八二円と3で認定したみなし寄附金損金算入限度額五五万二六五六円を加算した四〇一万六三二八円を控除した四三六四万四八七六円となる。

また、原告会社が法定申告期限内に本件事業年度の確定申告書を提出しなかつたことは当事者間に争いがない。それゆえ、原告会社は無申告加算税の賦課を免れない。

右の次第で、本件更正処分等は、正当な所得金額の範囲内で行われていることが明らかであつて、原告会社主張の違法はない。

三  次に、本件告知処分について検討する。

1  前示のとおり本件更正処分等に違法はなく、これによつて確定された原告会社の本件事業年度における法人税額は一六四九万四七七〇円、無申告加算税額は四一二万三五〇〇円である。このうち法三一条の三第一項の規定により課された額(以下「行為計算の否認にかかる部分の国税」という。)を計算すると、被告主張(別表(2)<略>)のとおり法人税一六一三万一八八五円、無申告加算税四〇三万二七八三円となるところ、これにつき原告会社に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められることは、弁論の全趣旨によつて明らかである。そして、原告幸作、同貞子が法三一条の三第一項の規定により否認された原告会社の行為につきそれぞれ二一六二万四二〇九円(前記四三二四万八四一八円の半額)の利益を受けたことは先に認定したとおりである。してみると、原告幸作、同貞子は、旧国税徴収法三六条二号の規定により、右行為計算の否認にかかる部分の国税につき右受益額二一六二万四二〇九円を限度としてそれぞれ第二次納税義務を負うべきものである。

2  また、原告会社の本件事業年度における国税のうち、行為計算の否認にかかる部分の国税以外の部分は、法人税三六万二八八五円、無申告加算税七万〇七一七円であるところ、これにつき原告会社に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められることは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、これは、先に認定した合意解除により原告会社がその主要な財産である本件土地を原告幸作、同貞子に対して著しく低い額の対価で譲渡したことに基因するものと推認するのが相当である。そして、原告幸作、同貞子が右譲渡によつてそれぞれ二一六二万四二〇九円の利益を受けたことは前記のとおりであつて、特段の反証のない本件においては、右受益額二一六二万四二〇九円全額が現に残存しているものと推定すべきである。してみると、原告幸作、同貞子は、旧国税徴収法三九条の規定により、行為計算の否認にかかる部分の国税以外の国税につき右現存受益額を限度としてそれぞれ第二次納税義務を負うべきものである。

3  右の次第で、前記一部取消後の本件告知処分にも原告幸作、同貞子主張の違法はない。

四  よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとり判決する。

(裁判官 佐藤繁 八丹義人 菊池洋一)

別紙<略>

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